科学とファンタジー 目に見えない何かを考える|小林エリカ|作家・漫画家
19世紀末っていうのは科学とファンタジーが同時に存在していたようで、目に見えない放射能のことを研究していたキュリー夫妻は、心霊現象の研究会にも呼ばれていました。キュリー夫人は興味がなくてすぐに行くのをやめてしまったようなんですが、夫のピエールは死ぬ直前まで降霊会に通っていて。でも皮肉なことに、降霊術を信じていたピエールは死後、キュリーの元に姿を現すことはありませんでした。
それほどまでにピエールが降霊術に熱心になったのも、魂が目に見えないから。目に見えないものに対しての好奇心は、科学にもファンタジーにもなるんだなと思っています。
私も、小さなころから目に見えないものへの興味がずっとあって、今も持ち続けています。それは、ミヒャエル・エンデの本が好きだったこともありますが、おしゃれをしたり部屋をきれいにしたりするよりも、何よりも文学が大事、という両親に育てられたこともあるのかもしれません。母は何の変哲もない、ゴミが散らばっている部屋を“ベルサイユ”と呼んでいて。もちろん掃除はしたほうがいいんですが、究極は自分がベルサイユって思えればいいかなという気持ちが根底にあります。
ファンタジーの世界って決して遠くにあるものではなくて、日常生活のなかに潜んでいるもの。たとえばごはんを食べるときに、お米が育った場所や魚が見た風景を想像したり……。何かと出逢った一瞬から、時間や場所を超えて深く考えること。それが私にとってのファンタジーなんだと思います。
小林エリカ
1978年生まれ。著書に小説『マダム・キュリーと朝食を』(集英社)『親愛なるキティーたちへ』、放射能の歴史を辿るコミック『光の子ども1,2』(ともにリトルモア)などがある。
» mammoth No.33 Fantasy Issue | 君の、ファンタジーの扉を開こう!